大切なことはいつも彼女が教えてくれた

宇多田ヒカルの新譜が世界中で売れまくっている。もちろん聴いた。最高のアルバムだ。ただでさえ8年ぶりのアルバムリリースである。懐かしい歌声に感化されレンタルショップへと走った。デビューアルバム「First Love」が聴きたくなったのである。これは僕の中で衝撃的な一枚だったのだ。ここからは、僕が育った環境での体感した記憶を基に、振り返ってみる。

このアルバムが出たのが、僕が小学校高学年くらいのころ。お小遣いもそんなに多くないのでレンタルCDショップでCDをまとめて借りて、カセットに落とし込むというのが音楽の主流の楽しみ方。そんな中、僕らの元に革新的な録音媒体がやってきた。iPodが登場するのはまだ少し先の話。そう。MiniDisc。MDである。

A面とB面がない。。。だと。。

今、レコードに続いてカセットも復活の兆しを見せているが、僕らのど真ん中は短く儚いMD世代だったのだ。半透明のプラスチックケースに、盤が封入されているデザイン。未来がやってきたと思った。MDに憧れ、お小遣いで小学校六年生の頃、MDプレイヤーとコンポを買った。カセットのようにひっくり返す手間もなく、多少、音質は劣化するが倍速録音で80分容量のものを2倍、3倍の尺で録音することができた。僕のような凡庸なジャリガキの耳にはそれでも充分。何ら遜色なく聞こえていたと思う。そんな僕がMDに最初に録音したのが宇多田ヒカルのFirst Loveだったのである。ちなみに愛用していたポータブルプレイヤーはPanasonic SJ-MJ70。連続再生時間が長く、当時の世界最薄、最軽量といったハイエンドモデル。リモコンのピピッという操作音も良かった。

録音しながら、クリアなサウンドと歌声に感動したのを覚えている。今だからこそ想像できるけれど、この「First Love」のスタジオエンジニアの録音技術も最高水準のものだったんじゃないだろうか。しばらく耳元では宇多田ヒカルが流れていた。倍速録音はせず、最高音質で取り込んだFirst Loveが僕の日常になった。僕らミレニアルズ以降のZ世代にはAutomaticの「七回目のベルで〜」のくだりの「ベル」って何スか?って感じらしいのだが(本当かよ。)その歌詞に出てくるカップルに、自分と好きな女の子を重ね小学生ながら、ドキドキしていた。いやしいやつめ。

MD界の赤き女王

MDにもヒエラルキーが存在した。CMから抜群にかっこいいSONYのREDHOTがその頂点。SONYはウォークマンのCMでもDragon Ashを楽曲とともに起用するなど、攻めたキャスティングでリアル厨二少年たちの心を鷲づかみにしていた。


そのREDHOTのCMにて、テレビ露出が極端に少なかった宇多田ヒカルがCMキャラクターに起用され、おかげで動く宇多田ヒカルを存分に見ることができた上、宇多田ヒカルパックなる仕様で発売された。ソニーさんありがとう。



欧米ではスタンダードだったアルバム先出し、後に人気曲をシングルカットという手法も日本のアーティストの中では斬新だった気がするし、主流だった8cmシングルからマキシシングルへと移行していたのも同時期だったと思う。こういった音楽界の動きがあるなかに、颯爽と現れ、ミュージックシーンに多大なる影響を与えた宇多田ヒカルは、以来、常に新しいものの象徴として僕の中に確固たる地位を築いている。宇多田ヒカルが日本の音楽史に残した偉業は知っての通り。8年ぶりの新作「Fantôme」は僕に何を与え、導いてくれるのだろう。

宇多田ヒカルを無限に楽しみたい人は、「ウタダヒカループ」を使おう。今までネット上に配信された楽曲PVをランダムに流してくれる。ヒカラーには最高の非公式オーディオボットだ。